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PMIとは?M&A後の成否を分ける経営統合の全体像を経営者向けにわかりやすく解説

目次

PMIとは、M&A後の経営統合プロセスを指す重要な取り組みのことです。本記事では、PMIの目的・進め方・期間・成功のポイントを整理し、M&Aを「成功」に導くための実務視点を解説します。

※本コラムでは、説明をわかりやすくするために、「譲受企業」を「買い手」、「譲渡企業」を「売り手」と表現します。

契約締結後の統合作業がM&Aの成否につながる!──PMIとは?

まずはPMIの定義や、なぜM&Aにおいて重視されているのかといった観点について解説します。

PMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)の定義

PMIとは、Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の頭文字から取った略称で、主にM&A成立後に行われる統合作業全般を指します。M&Aは契約の締結がゴールではなく、当初に期待されていたシナジーや成果を実現できて、はじめて「成功した」と言えます。PMIの主な取り組みは「経営統合」「信頼関係構築」「業務統合」の3つに分類され、買い手企業の経営陣が率先して進めることが欠かせません。

また、2022年3月17日には、中小企業のM&Aの効果を後押しすることを目的に、中小企業庁が「中小PMIガイドライン」を公表しました。こうした背景もあり、近年PMIに対する注目度が高まっています。

PMIがM&Aの成功・失敗を左右する

PMIがM&Aの成果を左右するという事実は、M&A成立後の調査結果からも明らかになっています。

中小企業庁の「中小PMIガイドライン」によれば、M&A実施後の総合的な満足度として「期待を下回っている」と回答した企業は24%にのぼりました。

その理由として、「相乗効果が出なかった」「相手先の経営・組織体制が脆弱だった」「相手先の従業員に不満があった」といった回答が挙げられています。

これらの理由は、いずれもM&A後の統合プロセスを適切に進めることで改善が見込める課題です。したがって、PMIを成功させることは、M&Aそのものの成功にも繋がると言えるでしょう。

PMIはいつから準備を始める?

PMIは一般的に「M&A成立後の統合作業」のことを指すため、契約が締結された後からスタートすると捉えられるケースも少なくありません。確かに、実務上の対応が本格化するのはM&A成立後ですが、実際には下準備などをM&A成立前から進めることが重要です。本項では、PMIの全体像をつかむために、いつからどのような流れで進めていくのかを解説します。

PMIの全体像

【M&A初期検討のフェーズから始める】
中小PMIガイドライン」によると、M&Aについて「期待を上回る成果が得られている」「ほぼ期待どおりの成果が得られている」と回答した企業の約6割は、PMIの検討を「基本合意締結前」もしくは「デューデリジェンス実施期間中」から開始していることが明らかになりました。
(参考資料:中小PMIガイドライン13ページ)

このように、M&Aの成果を実感している企業ほど、早期からPMIを視野に入れて準備に着手しています。そのため、M&A初期検討の段階からPMIの準備を進めることが重要です。

【PMIのステップ】
PMIは大きく4つのステップに分けられます。1つ目は「M&A初期検討」のステップです。M&Aの目的を明確化し、成功を定義します。時期の目安としては、M&Aのトップ面談前~トップ面談のフェーズです。

2つ目は「”プレ”PMI」と呼ばれるM&A成立前の取り組みを指すステップです。PMIを意識した事前準備を進めます。時期としては、M&Aプロセスの基本合意締結~クロージングまでの期間が目安になります。

3つ目のステップは、PMIの集中実施期です。一般的にイメージされているPMIは、このフェーズに当たります。PMIの推進体制を構築し、取り組みの実行まで行います。M&A成立後から約1年かけて進めていきます。中でも、推進体制の確立や関係者各位との信頼関係の構築、現状把握などは、M&A成立後100日までに実施することが望ましいです。

そして4つ目は、「”ポスト”PMI」と呼ばれるPMI集中実施後のフェーズです。PMI集中実施期の成果を踏まえて方針を見直し、次の目標に向けてPDCAを継続的に回していきます。事業の継続や中長期的な成長を見据え、数年単位で取り組むことが重要です。

各ステップの取り組み内容とポイントを解説!──PMIの流れを解説

先述したように、PMIには「M&A初期検討フェーズ」「“プレ”PMI」「M&A成立後フェーズ」「“ポスト”PMI」の4ステップがあります。本項では、各ステップで求められる具体的な取り組みの内容と、押さえておくべき重要なポイントを整理しながら解説します。

M&A初期検討フェーズ

M&A初期検討フェーズでは、M&Aの目的と成功の定義を明確化します。まずは、「そもそもM&Aを通じて何を目指すのか」「M&A後にどのような姿になっていたいのか」といった目的を言語化しましょう。そこから、期待されるシナジー効果を得るためのM&A戦略を策定し、内容を精査していきます。

M&AやPMIプロセスを進める中で、どうしても様々な問題や課題に直面してしまいます。そうした際に、常に立ち返るべき原点を明確にしておくことで、M&Aを成功に導きやすくなるでしょう。

また、「何を実現すれば、M&Aが成功したと言えるのか」を明確化しておくことも欠かせません。M&Aにおける成功を定義することで、定期的な振り返りを通じた取り組みの評価や軌道修正も実行しやすくなります。

基本合意〜クロージングフェーズ「”プレ”PMI」

M&A成立後にPMIプロセスを円滑に始めるためには、成立前の段階からPMIを見据えた準備を意識し、デューデリジェンス(DD)などを通じて、売り手企業に関する情報を可能な限り入手しておくことが欠かせません。

もっとも、DDは書面での情報確認が中心となるため、売り手側の実態を全て把握することは困難です。クロージング後、現場で従業員から直接話を聞いて初めて分かることも少なくないでしょう。

そのため、クロージング前の段階では、「現時点で把握できていないことは何か」「それを補うために、クロージング後にどのような対応が必要か」などを整理し、M&A成立後の集中実施期に取り組む内容をあらかじめ計画しておくことが求められます。

M&A成立後フェーズ

M&A成立後は、PMIの集中実施期に入ります。このステップでは、「PMI推進体制の構築」と「PMIの取り組みの実行」の2つを進めます。

【PMI推進体制の構築】
中小企業のM&Aでは、限られた人員の中で、通常業務と並行してPMIを実施するケースが一般的です。このような状況下でPMIを円滑に進めるためには、PMI推進に必要な役割を整理し、買い手側・売り手側それぞれの適切な人材で役割を分担しながら進めることが求められます。

また、PMIで検討すべき事項は多岐にわたるため、自社のリソースだけでは専門的な知見やノウハウが不足する可能性も考えられます。こうした場合には、支援機関など外部の専門家の活用も検討すると良いでしょう。

【PMIの取り組みの実行】
M&A直後は、売り手企業の経営や事業運営が不安定になりやすい状況です。事業を円滑に継続し、さらなる発展を遂げるためには、できるだけ速やかにPMIに取り組むことが求められます。成立後は、売り手側の詳細な実態把握を進めながら、新たに把握した課題への対応も踏まえて方針を策定し、計画的な実行と効果検証を行います。

とはいえ、中小企業のリソースには限りがあり、全ての課題やリスクに対応することは現実的とは言えません。したがって、M&Aの目的を実現するために必要な事項を見極め、M&A成立後から1年間を目安に、優先順位を付けて集中的に取り組む必要があります。

PMI集中期間後「”ポスト”PMI」

PMI集中実施期を終えた後も、PMIの取り組みは続きます。この期間がいわゆる「”ポスト”PMI」です。

“ポスト”PMIでは、M&A成立後の集中実施期における取り組みの結果を踏まえ、次期会計年度など次の目標に向けてPMIの方針を見直し、PDCAを継続的に回していきます。PMIは、集中実施期だけで終わらせるのではなく、中長期的な視点で取り組みを継続していくことが重要です。

その上で、「当初に掲げた目的に対して成果はどの程度出ているか」「目的達成の見込みはあるか」など、これまでの取り組みを振り返り、評価を行うことが欠かせません。また、M&Aの目的やPMIの進行状況に応じて、買い手側・売り手側のさらなる統合を行うなど、グループ組織体制の見直しも検討することが望ましいです。

PMIを円滑に進めるための土台!──PMIの推進体制

PMIを円滑に進めるためには、まずは適切な体制を整える必要があります。本項では、体制構築の基本的な考え方やPMI推進に必要となる役割について解説します。

PMI推進の検討方針

限られた人員の中で円滑にPMIを推進するためには、買い手・売り手の双方が参画するPMI推進チームを組成し、明確な役割を定めて取り組むことが必要不可欠です。PMI推進において必要となる主な役割には、「重要意思決定」「企画・推進」「実務作業」の3つがあります。それぞれ適切な人材で役割分担することが望ましいですが、企業の規模や状況によっては複数の役割を兼務するケースも考えられます。

PMI推進における役割

PMI推進に必要な役割は、大きく分けて「重要意思決定」「企画・推進」「実務作業」の3つがあります。

まず「重要意思決定」の役割は、買い手側経営者を中心にPMIに関する重要な意思決定を行うことです。PMI全体の責任を負う立場でもあります。

次に「企画・推進」の役割ですが、PMIの取り組み全体を把握し、各取り組みの企画・推進、進捗・タスク管理などを行います。必要に応じて、買い手側・売り手側にてPMI推進チームを組成することも、「企画・推進」の役割の一つです。

そして3つ目の「実務作業」の役割は、PMIに関する具体的な実務作業を行うポジションです。必要に応じて、取り組みテーマごとにチームを組成することもあります。

以上の3つの役割に加え、士業やM&A仲介会社、経営コンサルタントなどの外部支援機関がサポート役として関与することで、PMIをより円滑に進め、成功の確度を高めることが期待できます。

特に大切な考え方3選を紹介!──PMIを成功させるための心構え(買い手)

PMIを成功させるためには、具体的な施策や計画、事前準備が重要であることは多くの方が認識していると思われます。しかし、それと同じくらい重要なのが、PMIに向き合う姿勢や意識の持ち方です。この点は見落とされがちですが、PMIを成功に導くために欠かせない要素です。本項では、PMIを円滑に進めるために、買い手側があらかじめ意識しておくべき心構えについて解説します。

自社の「当たり前」を押し付けない

PMIでは、買い手側の価値観や制度を一方的に押し付けず、相手企業の文化を尊重する姿勢が重要です。

一般的に買い手企業は売り手企業より企業規模が大きく、経営体制も整備されているケースが多く見受けられます。そのため、DDの結果や売り手企業の実務状況を知った際、買い手側は無意識のうちに自社の基準と照らし合わせてしまいがちです。中小企業では、「業務が属人化されている」「会計管理の仕組みがない」「現金管理のルールが未定」といった状況は珍しくなく、むしろ初めから完璧に対応できているケースのほうが少ないと言っても過言ではありません。

こうした場面で、つい「普通はこうだ」「この状態は問題だ」といった言葉が思わず口をついて出てしまうことがあります。しかし、このような発言や意識こそが、M&Aの成功を阻害する要因となるため注意が必要です。初期段階で一方的に否定してしまっては、売り手側との信頼関係構築に影響を及ぼしてしまいます。

もちろん、企業の成長のために取り組むべき改革もありますが、「なぜそれを行う必要があるのか」「それによって、どのようなメリットが期待できるか」といったことを売り手企業に丁寧に説明し、十分なコミュニケーションを取りながら進めていく姿勢が欠かせません。

投資回収を急ぎすぎない判断軸

PMIでは、短期的な成果を求めすぎず、中長期的な成長を見据えた判断が成功につながります。

M&Aは「将来に向けた成長投資」であるため、買い手企業が投資回収への責任感やプレッシャーを感じるのは自然なことです。上場企業では株主への説明責任が伴い、非上場企業でも地域での注目や、買収資金を借り入れた銀行からの返済プレッシャーがあるでしょう。

ただし、こうした焦りから無理な改革を進めることは賢明な判断とは言えません。PMIにおいては、業績改善などの定量的な成果を出すことは欠かせませんが、それと同時に、全ての関係者が「M&Aをして良かった」と納得できるかどうかも重要な要素です。

そのため、まだ十分な信頼関係が築けていない初期段階から急な変革活動を進めたり、過剰なマネジメントを行ったり、売り手企業から反発を買うような取り組みは避けるべきです。売り手企業の信頼と協力を得ることが、継続的な成長につながります。

放任にならないための関与の仕方

PMIでは、売り手企業に任せきりにするのではなく、適切な距離感で関与し続けることが信頼関係構築につながります。

相手企業を尊重する姿勢は大切ですが、企業成長のために取り組まなければならない課題は、売り手企業単体でもグループ全体でも存在します。これらの課題について十分な議論を行わずに放任してしまえば、M&Aを実施した意義が失われてしまうでしょう。

相手への配慮は常に持ちつつ、対応すべき事項や進め方、スピード感など、両社で議論を重ね、適切な距離感を保ちながら進めていくことが、PMI成功の近道です。

ここだけは押さえておきたい考え方2選!──PMIを成功させるための心構え(売り手)

PMIは買い手企業の経営陣が率先して進めるべきだとされていますが、PMIの成功には売り手企業側の積極的な関与も欠かせません。本稿では、売り手企業が意識すべき心構えを解説します。

売り手オーナー自らが説明責任を果たす

売り手企業のオーナー自らがM&Aの意義を丁寧に説明することで、従業員や取引先は大きな安心感を得ることができます。

M&Aに馴染みのない人の中には、ネガティブなイメージを持っているケースも少なくありません。そのため、十分な説明がないと「会社が乗っ取られた」という誤解が生じる可能性も考えられます。その結果、不安に感じた従業員の離職や、会社への不信感が増加する恐れがあります。

従業員の理解と協力を得られない状態では、両社が一体となってPMIの取り組みを進めることは難しく、当初期待していた成長を実現できなくなってしまいます。そのため、売り手企業のオーナー自らが以下の内容を発信することが欠かせません。

・M&Aは会社を成長させるための戦略的判断であること
・シナジー効果を期待でき、信頼できる相手だと感じたから提携を決めたこと
・従業員にはこの決断を理解し、PMIに協力してほしいこと

なお、上記を伝える際は、買い手企業側の経営陣も同席した上で、今後の方針や進め方についても説明を行うことが重要です。

不安や要望を遠慮せず共有する重要性

抱えている不安や課題を早期に共有することで、統合後のトラブルを未然に防ぐことができます。

PMIの現場において、売り手企業が「買い手企業に提案したいことがあっても、意見して良いのか分からない」といった悩みを抱えるケースは少なくありません。しかし、買い手企業に気を遣いすぎて本心を伝えられないままでは、この先も信頼関係を築くことが難しくなってしまいます。

買い手企業側の多くは、売り手企業が感じている不安を可能な限り解消したいと考えており、両社の成長につながる要望やアイデアについても積極的に取り入れたいと考えています。そのため、売り手企業が抱く不安や様々なリクエストは臆せずに発信することが双方のためになります。

各取り組みで意識すべきポイントを解説!──PMIを成功に導く5つのテーマ

PMIで取り組むべき事項は多岐にわたりますが、成功に導くために以下の観点を重視して進めることが重要です。

・経営統合
・信頼関係の構築(従業員対応、取引先、外部関係者への対応)
・業務統合

それぞれの取り組み内容について、目指すべきゴールや意識すべきポイントを整理しながら、一つずつ丁寧に解説します。

経営統合

経営統合では、買い手・売り手が一体となった経営に向け、経営の方向性・体制・仕組みを確立していきます。

目指すべきゴール 意識すべき観点 主な取り組み内容
①経営の方向性の確立 双方の経営の方向性を明確に示し、社内外の共感を得て推進力を高める。 売り手側経営者の退任後も経営の軸を確立し、社内外の協力を得る体制を整える。 ✓経営理念と経営ビジョンの提示、および経営戦略・経営目標・事業計画への落とし込み
✓社員への速やかな共有
②経営体制の確立 売り手を円滑かつ適切に運営できる経営体制を速やかに構築する。 買い手・売り手が一体となれるよう、経営体制や関係性の構築を早期に進める。 ✓売り手の経営を担う人材の確保
✓売り手の経営チームの構築
③グループ経営の仕組みの整備 共同体として成長するための経営の仕組みを整備する。 属人的だった意思決定やコミュニケーションの在り方などを見直す。 ✓双方が連携して経営の方向性実現や経営課題に取り組む体制を構築
✓規程整備や取締役会の開催など、組織的な意思決定体制を確立
✓新たな会議体の設置や、不必要な会議体の廃止

①経営の方向性の確立

まず取り組むべき事項は、経営の方向性の確立です。M&A後になりたい姿や経営目標を示し、その実現に向けた道筋を具体化します。具体的な道筋が明示されることで、M&Aの目的やシナジー効果の実現可能性が高まり、従業員のモチベーション維持につながるでしょう。

目指すべきゴールとしては、買い手・売り手双方の将来の指針となる経営の方向性を明確にし、社内外の関係者の理解と共感を得ることで推進力を生み出すことです。中でも、M&A後に売り手側経営者が退任する場合、経営の軸が失われやすくなります。そのため、新たな経営の方向性を社内外に明確かつ丁寧に説明することで、協力を得やすい環境を整えます。

具体的な取り組み内容としては、まずは経営の方向性を具体化するために、経営理念と経営ビジョンを示し、実現に向けた道筋として経営戦略・経営目標・事業計画に落とし込みます。検討にあたり、支援機関の協力を得ることも有効です。大まかな経営の方向性は、M&Aプロセスの初期段階に検討しつつ、売り手側の経営者へのヒアリングなどを通じて修正したうえで、M&A成立後、速やかに従業員に共有します。

ただし、この時点での経営の方向性は、あくまで買い手側の仮説に過ぎません。M&A成立後のPMIプロセスで把握した売り手側の実態を踏まえ、経営の方向性をブラッシュアップすると良いでしょう。

②経営体制の確立

次に、経営体制の確立です。M&A成立後は、売り手企業を円滑かつ適切に運営できる経営体制を速やかに構築することを目指します。その際、買い手・売り手が一体となれるよう、経営体制や関係性の構築を早期に進めることが重要です。取り組み内容としては、「売り手企業の新経営者の選定」と「売り手企業の経営チームの組成」の大きく2つがあります。

【売り手企業の新経営者の選定】
売り手側の前経営者退任後、当面は買い手側経営者が兼務することが一般的ですが、兼務は大きな負担となるため、中長期的に売り手企業の経営を担う人材を確保する必要があります。

選任方法としては、買い手側の幹部を派遣するケースや、売り手側の従業員を内部昇格させるケースなど様々です。経営者としての資質や事業への理解度に加え、売り手側の従業員や取引先との関係性など、多角的な観点で慎重に検討します。

なお、買い手側から経営者を派遣する場合、その候補者をM&Aプロセスの段階から関与させることで、売り手側の事業に対する理解度を高めることができ、関係者との信頼関係も築きやすくなります。その結果、経営を担うことへの当事者意識や責任感の醸成も期待できるでしょう。

【売り手企業の経営チームの組成】
売り手側の新たな経営者を支える役員を選び、経営チームを構築します。短期的には、売り手側の反発や大量離職などを防ぐ観点から、売り手側の従来の経営体制をできる限り維持することが現実的です。一方で、売り手側の新経営者のもとで大胆な改革を進める場合は、その改革を後押しする人員を新たに配置するケースも少なくありません。

経営チームの体制は、買い手側・売り手側の関係性や、M&Aの目的などを総合的に踏まえて決定します。その際、新たに配置する経営陣の関与度合いを抑えたり、売り手側への勤務頻度を減らしたりするなど、柔軟に運用することも有効です。

ただし、売り手側の経営チームを大幅に変更する場合、双方の利害対立により、売り手側の反発やモチベーション低下を招く可能性があるため注意が必要です。変更時期や程度について一定の考慮をしたり、段階的に変更するようにしたり、慎重な検討が求められます。

③グループ経営の仕組みの整備

3つ目は、グループ経営の仕組みの整備です。買い手・売り手が一体となって成長するための経営の仕組みを整備します。M&Aを機に、ワンマン経営から組織経営へ転換するため、これまで属人的だった意思決定やコミュニケーションの在り方などを見直すことが大切です。

主な取り組みとしては、「買い手・売り手一体での経営体制の確立」「意思決定プロセスの確立」「会議体の見直し」を行います。

【買い手・売り手一体での経営体制の確立】
売り手の取締役会や経営会議に買い手側の人材を参画させ、双方が連携して経営の方向性実現や経営課題に取り組む体制を構築します。その他、経営陣同士が密にコミュニケーションを取る場を積極的に設けたり、買い手側から売り手側に派遣される人材に当事者意識を持たせたりすると良いでしょう。

【意思決定プロセスの確立】
中小企業では、意思決定に関する取り決め(職務権限規程など)がなく、経営者が意思決定を行っていることが多いです。そのため、意思決定に関する規程の確認や、取締役会・経営会議への参加、役職員へのヒアリングなどを通じて、売り手企業の実態を把握します。必要に応じて規程の整備や取締役会の開催を行い、組織的な意思決定体制を確立します。

【会議体の見直し】
売り手側の取締役会や経営会議へ参加し、事業状況や経営状況を把握します。定期的に実施されている会議体に関する情報(会議名称・目的・頻度など)を網羅的に把握しましょう。必要に応じて新たな会議体を設置したり、目的や意義が不明確な会議体があれば廃止したり、会議体の見直しを行います。

信頼関係の構築:従業員への対応

信頼関係の構築は、従業員・取引先・外部関係者の3者それぞれに向けて対応する必要があります。

まずは、企業成長に大きく影響を与える従業員への対応についてです。取り組みのゴールとしては、従業員が抱くM&Aに対する不安や不信感を払拭し、納得感や共感を得て協力を得ることを目指します。

【プレPMIにおける取り組み】
プレPMIの段階では、キーパーソンへの情報開示と協力要請を進めていきます。M&Aの基本合意後、キーパーソンに丁寧な説明と情報開示を行い、協力を要請することでPMIを円滑に行う体制を整えます。その際、情報流出リスクには十分注意し、必要に応じて秘密保持を誓約する書面を取得すると良いでしょう。

【PMI集中実施期における取り組み】
PMI集中実施期では、まず売り手側経営者とともに、売り手側従業員向けの説明会を開催します。説明会では全従業員に対し、「同時に・等しく・正確に」伝えることを意識し、従業員の不安を取り除きます。

次に、売り手側従業員と個別面談を実施します。一人一人の理解度に応じて説明会の内容を補完することに加え、それぞれの不安や思いに耳を傾け、親身に寄り添うことが大切です。

そして、M&A成立後100日以内を目途に、即効性の高い就労環境改善策を実行し、M&Aによる具体的なメリットを従業員に実感してもらいます。また、日頃から継続的にコミュニケーションをとり、強固な信頼関係を築くことも忘れずに行いましょう。

信頼関係の構築:取引先への対応

次に取引先への対応についてです。この取り組みでは、売り手側の取引先との関係を維持するために、M&Aの事実を伝えるタイミングや方法などについて慎重に検討した上で、丁寧な意思疎通を図ることが求められます。

【プレPMIにおける取り組み】
まずは売り手側の経営者にヒアリングを行い、事業継続に影響を及ぼす重要な取引先について把握します。企業概要書などの資料を確認し、売上が特定の取引先に集中している場合は、トップ面談の段階から確認しましょう。また、チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項の有無や内容についても事前に確認することが大切です。

【PMI集中実施期における取り組み】
M&A成立直後は、売り手側の経営者とともに主要取引先へ訪問し、M&Aの目的や背景、買い手企業に関する情報などを説明することで、信頼関係を構築します。ただし、M&Aによって主要取引先との継続取引が解消された場合は、売り手側の経営者と十分に相談し、必要に応じてM&A成立前に説明を行うことも検討しましょう。

また、契約書に明記されている取引内容や条件に加え、取引の経緯や暗黙の取り決めなども把握することが大切です。その後も、継続的に密なコミュニケーションを取ることで、取引先との信頼関係を強化し、想定外の事態や変化を防ぎやすくなります。主要取引先以外に対しても、M&A成立後速やかに挨拶文を送るなど、適切な情報提供を行い、不安や混乱をできる限り抑えるように努めます。

なお、不利な取引条件があった場合でも、直ちに是正を求めると関係性が悪化するおそれがあるため注意が必要です。価格交渉を行う際は、中小企業庁が公表している「中小企業・小規模事業者のための価格交渉ノウハウ・ハンドブック」を参考にしながら対応することを推奨します。

信頼関係の構築:外部関係者への対応

信頼関係を構築すべき相手は、従業員や取引先といった直接的な関係者だけではありません。人材派遣会社や外注先といった協力業者、金融機関、賃貸人、各種組合・団体、所管官庁など、多様なステークホルダーへの配慮も必要です。特に中小企業の場合、地域に根差した長年の事業活動を通じて、幅広く関係を築いてきたというケースも少なくありません。

まずは、売り手側の経営者や従業員へのヒアリングを通じて、事業継続をする上で関係性の維持が特に必要となる相手について把握します。その上で、各ステークホルダーとの関係性を踏まえた適切な対応を検討します。アクションを取る際は、売り手側の経営者や従業員に相談し、関係構築への協力を得ながら進めつつ、必要に応じて支援機関の活用も視野に入れると良いでしょう。

業務統合

業務統合では、大きく分けて「事業機能」「管理機能」の2つに分類されます。

事業機能

事業機能の統合では、買い手・売り手双方の経営資源を効果的に組み合わせ、事業面でのシナジー創出を目指します。具体的には、売上拡大につながる「売上シナジー」と、売上原価や販管費などの削減につながる「コストシナジー」の実現を図ります。あわせて、強みの強化や課題改善を通じて持続的な成長も目指します。また、M&Aを成功させるためには、必要に応じた売り手企業への追加投資も欠かせません。

【M&A初期検討~プレPMIにおける取り組み】
M&Aの目的を明確にし、期待されるシナジー効果を得られるか、戦略を策定・精査します。ヒアリングやDDなどを通じて、売り手側の事業内容(事業計画、組織図、主要顧客、取引状況、主要製品・サービス、商流、従業員など)と、事業における課題認識を把握し、理解を深めます。その上で、目的達成に必要なシナジーを整理し、M&A成立後の取り組みについて仮説を立てておきます。

【PMI集中実施期における取り組み】
①現状把握
M&A成立後、各種経営管理資料の確認や、キーパーソン・従業員へのヒアリング、主要な事業所・工場への視察などを通じて、事前段階では把握できなかった情報を詳細に把握します。

②統合方針の策定
現状把握を踏まえ、想定するシナジーごとに、実現に向けた具体的な施策を整理します。期待される効果や実現可能性などの観点から評価を行い、取り組みの範囲と優先順位を決定します。

③行動計画の策定
取り組みごとに、「誰が」「いつまでに」「何を実施するか」を明確にし、行動計画に落とし込みます。また、取り組みの成果を測定して検証できるよう、売上高や販売数量、KPIなど、定量的な指標を設定します。

④行動計画の実行・検証
行動計画に沿って取り組みを実行します。各種管理帳票や会議などを通じて、定期的に各担当の進捗状況を把握し、必要に応じて取り組みの見直しを行いましょう。

【ポストPMIにおける取り組み】
PMI集中実施期の結果を踏まえ、次の目標に向けて取り組み方針の見直しを行い、継続的にPDCAを回します。

管理機能

管理機能の統合では、売り手側の管理機能の実態を把握し改善を進めることで、経営基盤の確立を目指します。ただし、全ての取り組みに対応することは困難であるため、リスクや課題の重要性、緊急性、実行可能性といった観点から優先度を判断することが大切です。また、必要に応じて弁護士や税理士、公認会計士、社会保険労務士などの専門家を活用し、着実に整備を進めます。

【M&A初期検討~プレPMIにおける取り組み】
DDなどを通じて売り手側の管理機能(人事・労務、会計・財務、法務)に関する情報収集や事前検討を行います。各機能における問題点が判明した際は、M&Aの実行やPMIにどのような影響を及ぼすのか整理し、可能な限りリスクや対策について検討することが望ましいです。

【PMI集中実施期における取り組み】
①現状把握
売り手側の経営者や従業員へのヒアリング、各種経営管理帳票などの精査を行い、DDなどであらかじめ認識していた課題やリスクについて詳しく調査します。

②統合方針の策定
現状把握を踏まえ、各領域において優先的に対応する事項や方針を策定します。

③行動計画の策定
各事項について行動計画に落とし込みます。実際のPMIでは、取り組みの実施が必要ない場合や、反対により詳細に実施する必要がある場合、追加の取り組みが必要な場合など、臨機応変な対応が必要になるため注意が必要です。

④行動計画の実行・検証
行動計画を順次実行します。定期的に進捗状況を確認し、必要に応じて取り組みの見直しを行いましょう。なお、双方の関係性や外部環境などを考慮し、実行の要否やタイミングを再検討するケースもあります。

【ポストPMIにおける取り組み】
PMI集中実施期の結果を踏まえ、次の目標に向けて取り組み方針を見直し、継続的にPDCAを回します。

業務統合でやるべきことが丸わかり!──業務統合を機能別に紹介

業務統合は、「事業」「人事・労務」「会計・財務」「法務」「ITシステム」の各分野に応じた取り組みを進めます。本項では、各分野における具体的な取り組み内容と留意点について解説します。

事業分野のPMI①経営資源の相互活用

事業分野におけるPMIは、大きく「経営資源の相互活用」「売上原価の改善」「販管費の改善」の3つに分類することができます。

まず、経営資源の相互活用では、買い手・売り手双方の製品やサービスを相互に活用し、既存顧客にアプローチすることにより、売上拡大を目指します。具体的な施策としては、「クロスセル」と「販売チャネルの拡大」があります。

【クロスセル】
クロスセルとは、既存顧客への提案時に、関連製品・サービスを併せて提案することで、追加の売上を創出する手法です。買い手・売り手双方の顧客ニーズが類似している場合や、相互に製品・サービスが補完できる場合に高い効果を発揮します。

ただし、双方の既存顧客が対象となるため、十分な検討をせずに提案をしてしまうと、既存顧客の信用を失うおそれがあります。そのため、追加提案が既存顧客にとって本当に価値があるかどうかなど、慎重に見極めることが大切です。

また、相手企業の製品・サービスの提案を行うので、十分な商品理解が欠かせません。製品・サービスに関する勉強会や同行営業を実施するなど、相手企業の製品・サービスに対する理解を深める場を設けると良いでしょう。また、クロスセルに対してインセンティブを導入するなど、営業目標や評価指標についても工夫することで、従業員のモチベーション維持にもつながります。

【販売チャネルの拡大】
販売チャネルの拡大は、提供する製品・サービスの類似性が高い一方で顧客層が異なる場合に、相手企業の既存顧客に対して自社商品を販売する手法です。これにより、新規顧客の獲得や販路の多様化、営業エリアの拡大などが期待できます。特に、お互いの既存顧客層が異なる場合や、地理的な営業エリアが重複しない場合に高い効果を発揮しやすいです。

留意点として、相互に既存顧客を紹介し個別に営業を行う場合、顧客に不信感を与えないよう配慮が必要です。顧客との関係性や提案内容といった情報共有を徹底しましょう。

また、双方で顧客情報を共有する場合や、相手企業へ直接アプローチする場合は、顧客から事前に同意を得ることが望ましいです。特に、一般消費者の個人情報を取り扱う際は、個人情報保護法に抵触していないか入念に確認します。

事業分野のPMI②売上原価の改善

次に、売上原価の改善についてです。買い手が、売り手側の業務改善などを支援することで、売上原価の削減を目指します。具体的な施策としては、「生産現場の改善」「サプライヤーの見直し」「在庫管理方法の見直し」を行います。

【生産現場の改善】
売り手側の生産現場における5S(整理・整頓・清掃・清潔・躾)の徹底などを通じて、生産現場におけるミス削減や作業効率改善などを実現し、生産性を高める取り組みです。生産現場のミスや無駄を抑えることで、QCD(品質・費用・納期)の改善が期待できます。また、取り組みを習慣化させることで、従業員が主体的に動く組織風土の醸成にもつながります。

生産現場の改善では、現場の問題をタイムリーに把握し、改善活動を継続的な取り組みとして定着させることが重要です。不具合やトラブルを早期に察知し、生産停止の判断や再発防止策の検討を速やかに行う体制を整える必要があります。

一方で、中小企業の生産現場では、各工程の作業時間や稼働状況、在庫の発生状況、不良や廃棄ロスの発生状況などの情報が可視化されていないケースも少なくありません。その結果、現場の問題点をタイムリーに把握できない可能性があります。売り手側の生産現場における情報の可視化を進め、必要な情報を適時取得できるよう、ITシステムの整備を行うことが求められます。

また、5Sは単なる整理整頓や清掃活動ではなく、利益に直結する重要な施策です。継続的に取り組むことで、従業員が自発的に改善を進めるレベルまで発展させることが望まれます。

【サプライヤーの見直し】
製造業における部品や原材料、卸業・小売業における商品のサプライヤー(仕入先、供給元など)のうち、自社に不利な取引条件となっている先を洗い出し、必要に応じて条件見直しの交渉を行います。また、サプライチェーン安定化のために新規サプライヤーを獲得するなど、調達におけるQCDの改善も目指します。

安定した調達を維持するためには、サプライヤーとの信頼関係の強化が欠かせません。M&A成立後に取引条件の交渉を行うことは、タイミングとして適切でないケースも多いため注意が必要です。加えて、近年は原材料の価格高騰や自然災害による供給停止といったリスクも高まっていることから、自社の安定的な事業運営のためにサプライヤーの拡大が求められます。

また、中小企業では、サプライヤーの技術力や取引に関する情報が十分に可視化・管理されていない場合も見受けられます。特に重要な調達品目については、管理ツールやITシステムの導入を検討するようにしましょう。

【在庫管理方法の見直し】
売り手企業が保有する原材料・資材・商品などの在庫は、生産・販売状況に合わせて、必要な量を必要な時・必要な場所に供給できるよう管理します。在庫は、生産や仕入に伴って支出した現預金と同等の資産とされるため、過剰在庫や滞留在庫を改善することで、資金繰りの改善につながります。

具体的な取り組み内容としては、まず売り手側における在庫の定義を確認します。次に、帳簿と現品の乖離を解消するために、月次で現品・在庫台帳・会計元帳を照合し実地棚卸を行います。また、在庫の保管場所や保管方法、現品の破損・紛失などについても定期的に確認し、必要に応じて改善しましょう。

なお、事業サイクルと比較して在庫回転期間が長い場合は、過剰在庫や滞留在庫が生じている可能性がある点に注意が必要です。特に中小企業では、在庫に関する情報が可視化されていない場合も多いため、現品確認に加え、在庫データを収集できる仕組みを導入すると良いでしょう。また、在庫管理の精度を向上させるためには、製造指図や購買指図、会計情報などと連動する在庫管理システムの導入が理想的です。

事業分野のPMI③販管費の改善

買い手側が、売り手側の間接業務の改善を支援することで、販管費削減を目指します。主に「広告宣伝・販促活動の見直し」と「間接業務の見直し」に取り組みます。

【広告宣伝・販促活動の見直し】
売り手側の広告宣伝や販売促進について、目的を明確化したうえで、費用対効果の観点から実施可否を判断し、適切な費用水準に抑えます。目的と効果の観点から活動を見直すことで、予算総額の抑制やコスト削減が期待できるでしょう。

具体的には、会社名や商品名の宣伝を目的とする活動(広告宣伝)と、製品・サービスの販売促進を目的とする活動(販売促進)の2種類があります。いずれも活動ごとに実施内容や発注状況を可視化し、継続・廃止・見直しの判断を行います。

特に中小企業では、広告宣伝や販売促進活動の管理が不十分の場合も少なくありません。「判断基準や発注権限が明確か」「発注先の比較購買をしているか」「活動内容が不透明になっていないか」「実施後の振り返りを行っているか」といった点を重点的に確認することが大切です。

また、広告宣伝・販売促進活動は経営者の目が届きにくく、管理を怠ると費用が膨らみやすい傾向があります。そのため、継続的に規律をかけていくことを推奨します。

【間接業務の見直し】
売り手側の業務内容を見直すことにより、間接業務における質的・量的改善を実現します。

間接業務における無駄や非効率を見直すことで、残業時間削減や業務品質の向上が期待できます。特にPMIでは、買い手側に対する報告業務や各種変更手続きなど、売り手側従業員には通常業務に加えて大きな負担がかかります。PMIを円滑に進めるために、通常業務の負荷をできる限り軽減することが重要です。また、従業員が課題に感じている業務上の問題を早期に改善することで、PMIへの理解や協力を得やすくなると考えられます。

一方で、中小企業では業務が属人化している場合も多く、「誰が、何を、どの程度、どのように」行っているか把握しづらい状況です。そのため、まずは業務の棚卸や業務分担表の作成、業務量調査などを通じて、実態把握からスタートします。それを踏まえて、改善対象業務を特定し、改善案の作成・実施・検証に取り掛かるという流れが一般的です。

また、ITシステムの活用が業務効率の改善につながることがありますが、システム運用に合わせて業務の見直しを図る必要があります。

人事・労務分野のPMI

売り手側における人事・労務の課題やリスクに適切に対応するとともに、適切な人材管理、人材活用に向けた基盤を作ります。主に、「人事・労務関係の法令遵守」「人事・労務関係の内部規程類」「従業員との個別の労働契約関係」「人材配置の最適化」に取り組みます。

人事・労務関係の法令遵守

大きく分けて以下5つの取り組みを行います。

【労働条件通知書や労使協定などに関する不備への対応】
労働条件通知書の未交付がある場合は速やかに交付を行い、「36協定」などの労使協定に不備がある場合は適正な協定の締結や届出を行います。また、労働時間の実態が協定に違反している場合は速やかに是正します。

【社会保険や労働保険に関する不備への対応】
社会保険や労働保険への加入が未完了の場合は、速やかに新規加入の対応をします。また、被保険者資格取得届の所轄官公署への提出が未了の場合は、資格取得届の提出を速やかに行います。

【労働組合との事前協議などに関する不備への対応】
労働組合があり、人事異動や組織再編などに事前協議が必要とされているにもかかわらず協議が未了の場合は、労働協約に基づき速やかに対応し組合との協調を図ります。

【職場環境などに関する不備への対応】
適正な安全衛生管理体制の整備を進めるとともに、労働災害や各種ハラスメント、労働紛争などの課題がある場合には、速やかに対応します。

【人事・労務関係の法令遵守などに関する姿勢の徹底】
担当者への研修実施や社内でのノウハウ蓄積など、M&A成立後も継続して法令遵守を徹底できる体制を社内に定着させます。

人事・労務関係の内部規程類

まず、内部規程類の見直しでは、売り手側の就業規則をはじめ、賃金体系、人事評価、労働時間管理、福利厚生、研修、退職金などの制度を、実態や最新の法令に合わせて見直しを行います。必要に応じて買い手側の制度を変更することも可能です。

ただし、規程の変更は従業員に直接的な影響を与え、特に労働条件の不利益な変更を伴う場合は、統合の要否や時期について慎重に判断する必要があります。一定期間は現状の労働条件を維持するといった検討も行うことが望ましいです。

また、新しく整備された規程や枠組みについては、説明会や個別説明などを通じて、全役職員が十分に理解できるよう丁寧に周知・教育を行います。規程整備後も正しく遵守されているか定期的に確認することが重要です。

従業員との個別の労働契約関係

ここでは、大きく分けて「残存する未払賃金や未消化の有給休暇に関する不備への対応」「長時間労働の改善」「キーパーソンである従業員の離職リスクへの対応」の3点に取り組みます。

【残存する未払賃金や未消化の有給休暇に関する不備への対応】
未払残業代などの未払賃金が残存している場合は、認識した金額を支払うなど、清算の対応を行います。また、未消化の有給休暇については消化を促進します。なお、M&A成立に伴い清算する場合は、労働基準法第39条の趣旨に反しない範囲で有給休暇の買い取りも検討できます。

【長時間労働の改善】
長時間労働が常態化している場合、その原因を構造的な面からも探求し、業務フローの見直しや人員補充などの対策を速やかに行います。長時間労働の改善は従業員任せにせず、経営陣が取り組むべき重要課題として積極的に対応することが重要です。

【キーパーソンである従業員の離職リスクへの対応】
事業運営において重要な役割を担うキーパーソンが離職しないよう、報酬や人事評価などの制度を必要に応じて見直し、従業員のモチベーション維持を図ります。同時に、キーパーソン固有の知見や人脈が組織内に共有・継承されるよう働きかけ、万が一離職することになった場合に備えた代替策も検討しておきます。

人材配置の最適化

買い手・売り手間での柔軟な人事異動を通じて、知見や技術・ノウハウの共有を進めたり、買い手側の経営人材を売り手側に派遣し、直接的な経営支援を行ったり、グループ全体での人材交流を進めます。また、管理機能を買い手側に集約することで、グループ全体の効率化を図ります。

ただし、人事配置の変更は従業員に直接的な影響を与え、労働条件の不利益変更を伴う可能性もあるため、実施の要否や時期については慎重に検討しましょう。

会計・財務分野のPMI

売り手側の会計・財務関係の処理方法や業務における課題・リスクに対応するとともに、適切な管理体制を構築します。「会計・財務関係の処理の適正性」「買い手・売り手間の会計・財務手続の連携」「業績などの管理」「金融費用の削減」に取り組みます。

会計・財務関係の処理の適正性

売り手側の過去の処理における誤りを是正し、適正な会計・財務処理を担保するための体制を整えます。

【過去の会計・財務関係の処理の誤りへの対応】
まずは、在庫や債権の評価など、過去の処理に誤りと思われる点があれば、その性質や発生時期を明らかにします。誤りなのか、単なる見解の相違なのか、売り手側経営者とすり合わせて判断しましょう。そのうえで修正が必要な場合は、会計仕訳・影響額の検討を行い、速やかに是正します。修正に伴い費用が発生する場合は、表明保証条項などに基づき、売り手・買い手で負担を分担することも可能です。

【適正な処理を担保する体制・ルールの整備】
一定金額以上の入出金における買い手側への報告・稟議を厳格化したり、資金管理担当者の定期的な異動を設けたり、会計・財務関係における規程整備や見直しを行います。また、在庫の棚卸方法や経理精算方法などのルールも必要に応じて見直します。なお、新たに導入した会計・財務関係の処理ルールや体制を周知するために、マニュアルの新規作成や、既存内容の見直しも検討しましょう。

買い手・売り手間の会計・財務手続の連携

買い手・売り手間で会計処理のルールや手順を統一・迅速化し、グループ全体で正確かつタイムリーな業績把握を目指します。

【売り手側の勘定科目や会計処理方針などの不一致への対応】
売り手・買い手の勘定科目や会計処理方針を統合します。特に主要な収益・費用の計上基準、各種引当金などについては、早期の統合が求められます。また、連結決算を行う場合、月ずれによる調整を減らすため、決算月を合わせることが望ましいです。

【決算の早期化】
まずは、決算確定日を定め、期限遵守を徹底します。間に合わない場合は、買い手側から人員を派遣したり、決算確定作業を買い手側が担ったり、在庫金額を概算で算出するなど、対応策を講じます。概算を用いる場合は、区分ごとに見積り、直近の実績値を参考にするなど、合理性のある見積り方法を採用しましょう。

【会計システムの不一致への対応】
売り手・買い手の会計システムが異なる場合、データ作成やサポートに支障が出る可能性があります。そのため、売り手側の会計システムの特性を理解した上で、システム変更で得られる効果と発生コストを比較し、必要に応じて売り手側の会計システムの変更を検討します。

業績などの管理

売り手側の業績を正確に把握し、改善に向けたPDCAを回すための仕組み作りを行います。

【予算制度・管理 会計制度その他管理ツールの導入】
売上・利益・資金状況など必要な情報を選別し、報告単位(日次・月次など)や期限を設定します。PMIの初期段階では、事業理解を深めるためにより細かい単位かつ高頻度な報告を求めることが理想的です。

また、予算に対する実績値を評価し、その結果を関連部署で共有して具体的な改善策を検討します。その後、会議などで実績値を共有し、従業員の数値に対する意識向上を図ることが大切です。

なお、買い手・売り手間で取引を行う際は、双方の業績を正しく判断するために、市場価格などの正常取引価格に基づいて行います。

【利益管理の前提となる原価計算制度の導入】
製品別やプロジェクト別といった利益管理の単位を決定し、原材料費・労務費・製造経費を補助科目や日報などを用いて各単位に振り分け、間接費の配賦基準(作業時間や生産量など)を定めます。建設業のように一つのプロジェクトにおける取引金額が高く長期間にわたる事業の場合、初期段階から原価計算制度の導入を検討することが望ましいです。

金融費用の削減

買い手の財務基盤や信用力を活かすことで、売り手の既存借入金の借り換えや新規の資金調達などをより有利な条件で行います。買い手が売り手に代わり資金を調達し、グループ内で資金を融通し合うことで、グループ全体の有利子負債の低減や支払利息の抑制などが期待できます。

法務分野のPMI

法務分野のPMIでは、売り手の法的な課題やリスクに適切に対応し、法的な手続きや規程を整備します。主に「法令遵守」「組織に関する内部規程類の整備状況と適正性」「外部関係者との関係の適正性」に着目した取り組みを実施します。

法令遵守

売り手の法的な課題やリスクを是正し、法令に則った適切な事業運営の基盤を整えます。

【許認可・登記に関する不備への対応】
事業運営に必要な許認可に不備があった場合は、速やかに継続手続きなどを行います。また、役員の重任登記がされていないまま数年が経過しているなど、登記が実態と異なる場合、過料が課される可能性があるため、迅速に対応します。

【個人情報・営業秘密の管理に関する不備への対応】
個人情報保護法に基づき、個人情報の管理体制を整備します。また、営業秘密(顧客名簿、販売マニュアル、製造ノウハウなど)についても、不正競争防止法に則り、適切な管理体制を整えます。

【表示・知的財産権に関する不備への対応】
ホームページや商品パッケージに誇張や虚偽の表示がないか確認し、不正競争防止法や不当景品類及び不当表示防止法などを確認し、必要に応じて是正します。また、知的財産権の登録や、他者の権利侵害などについても確認を進め、対応します。

【法令遵守の徹底】
M&A成立後も法令遵守を徹底できるよう、担当者への研修や社内ノウハウの蓄積を進めることが大切です。

組織に関する内部規程類の整備状況と適正性

会社法上必要な決議や内部規程類を見直し、ルールの周知徹底と遵守状況の確認を行います。

【会社法上必要な決議・議事録、定款、内部規程類の見直し】
計算書類の承認や役員選任、競業取引の承認など、会社法上必要な決議を適時行い、その議事録を適切に作成・保存します。また、両社の定款や、決裁・報告に関する内部規程を比較し、存続・集成・廃止といった方針を決定し実行します。その他、売り手の一定の行為に買い手の承認や報告義務を課す規程の新設なども検討します。

【会社組織に関する内部規程類の徹底】
整備後の新たな規程について、全役職員が十分に理解できるよう、一方的な通知だけでなく、説明会や個別説明を通じて丁寧に周知・教育を行います。必要に応じて内部監査体制を構築することも検討しましょう。

外部関係者との関係の適正性

これまで口頭や注文書のみで行われていた曖昧な取引条件や、リスクや不利益がある契約を見直します。

【資産・負債についての事業運営上必要な対応】
売り手の資産については、所有権の所在や担保権・賃借権の負担の有無を確認し、負債については、債権者との協議・調整などを行い、事業運営に支障が生じないよう対応します。

【COC条項への対応】
売り手側が締結している契約において、チェンジ・オブ・コントロール(COC)条項の有無と、M&A実行に関する対応について確認します。

【不明確・不利な取引条件に関する不備への対応】
口頭や注文書に基づくだけの取引条件がある場合は、契約関係を書面により明確化します。契約書の内容が最近の法令改正を反映していない場合は、最新法令に合わせた内容に改訂しましょう。

また、不利な取引条件がある場合は、買い手側の信用力も加味したうえで取引条件の改善を交渉するほか、買い手の既存取引先を紹介する対応も一つの手段です。特に取引先が独占禁止法や下請法に違反していると考えられる場合は、速やかな是正が求められます。売り手は既存の契約における課題やリスクを把握し、新たに契約を締結する際は買い手の助言も参考にしましょう。

【買い手側の契約手法の売り手側への適用】
買い手側が使用している契約書のひな形や様式、取引先に対する信用調査、反社会的勢力チェックの手法などを、売り手側に適用するケースもあります。

ITシステム分野のPMI

ITシステムにおける課題やリスクを適切に対処し、費用対効果のあるITシステムを導入します。

【ライセンス違反の抑止】
有料・有償のソフトウェアのライセンスについて、社内で不正な使いまわしや違法な複製がないか確認します。また、従業員が業務において購入・課金したライセンスに関する情報を一元管理し、従業員の裁量で購入・課金ができないようにします。

【情報セキュリティ対策】
サポート期間が終了したソフトウェアの継続使用は情報セキュリティのリスクが高まるため、該当するソフトウェアの利用の有無を確認し、適切に管理できるルールを定めておきます。なお、中小企業の具体的な情報セキュリティ対策については、独立行政法人情報処理推進機構が公表した「中小企業の情報セキュリティ対策ガイドライン」を参照すると良いでしょう。

【ITシステム管理方針の明確化】
中小企業では、ITシステムの調達や運用、情報セキュリティの責任者が不在であることが多く、適切な投資判断が難しい場合があります。そのため、IT管理の責任者を明確に定めることが重要です。また、従業員が安全かつ適切にシステムを活用できるよう、利用基準やルールをIT管理方針として整備・周知する必要もあります。

成功事例からPMIを学ぶ!──PMI事例の紹介

PMIの実務を具体的にイメージできるよう、実際の事例をもとに、効果的な手法や押さえておくべき考え方を解説します。

M&Aを重ねて成長するSHIFT社の事例をご紹介

ここでは株式会社SHIFTにおけるPMI事例をご紹介します。

SHIFT社では、「守りのPMI」と「攻めのPMI」を実施することで、安定した収益基盤の確立と企業価値向上を図ってきました。

守りのPMIでは、計数管理と内部統制に取り組み、経営管理体制を構築。具体的には、KPIや業績数字のモニタリングを徹底することで、M&A時に策定した計画の確実な達成を目指しました。また、上場企業として適切な事業運営を実現するために、内部統制にも取り組んでいます。

一方、攻めのPMIでは、グループ会社の状況に応じて時間をかけて導入し、営業力と採用力を強化することで、成長エッセンスを注入しました。具体的には、プライム案件に取り組むことで商流を改善し、エンジニア単価の引き上げによる売上・売総率の向上を実現。さらに、エンジニア採用数の拡大や高単価人材の獲得を進め、売上拡大につなげています。

SHIFT社は、こうしたPMI手法を型化したことで、グループ会社の成長を実現することができました。今後は、PMI手法をさらに磨き上げつつリソースを投下し、組織としてのPMI推進力を強化する方針を持たれています。

(参考:「今後のM&A/PMI戦略および『SHIFTグロース・キャピタル』に関する説明会」について

PMIを複数の観点から支援します!──当社で提供できること

PMIは、M&A成立後に行う統合作業のことで、当初に想定していたシナジーや成果を実現させるために行います。PMIの結果がM&Aの成否を左右すると言っても過言ではなく、取り組み内容も複雑かつ多岐にわたるため、必要に応じて専門家の活用を検討することが大切です。

株式会社NEWOLD CAPITALでは、「M&A」「経営人材紹介」「エキスパート活用ソリューション」の3つの観点からPMIの支援ができます。

株式会社NEWOLD CAPITALでは、成長戦略実現ファームとして、単なるM&Aや人材支援にとどまらず、企業の本質的な課題に向き合い、経営者の伴走者として実行までを支援しています。M&Aをご検討中の方やPMIにお悩みがある方は、ぜひお気軽にご相談ください。

渡辺 紗里奈

渡辺 紗里奈

経営戦略室 室長

Writer

栃木県上三川町出身。
東京理科大学卒業後、株式会社日本M&Aセンターを経て、当社。
高校から大学在学中はサッカー部のマネージャー兼トレーナーとして、チーム全体の戦略を支える役割を担い、「人や組織の成長を後押しする」ことに魅力を感じる。卒業後、M&Aアドバイザーとしてキャリアをスタートさせ、当社では100億円を超えるディールサイズのセルサイドFAを担当し、成長戦略型M&Aの経験を積む。現在は、経営戦略・新規事業・マーケティングを担い、M&Aアドバイザーとしての知見を活かしながら、企業の成長支援に努めている。