「事業を拡大したい」「後継者がいない」「業績改善が必要」──こうした課題を抱える経営者にとって、PEファンドは一つの解決策になり得ます。この記事では、PEファンドの仕組みや活用のポイント、具体的なメリット・注意点を解説します。
Contents
未上場企業の価値を高める! ──PEファンドとは?
そもそもファンドとは、投資資金を集め、運用・管理する仕組みを指します。
ファンドには、GPと呼ばれるファンドの管理・運営をする無限責任組合員と、LPと呼ばれる投資家(銀行、証券、保険、自治体、事業会社、富裕層など)の有限責任組合員で構成されています。
中でもM&Aのマーケットにおけるファンドは、PEファンド(プライベート・エクイティ・ファンド)を指すことが多いです。
PEファンドは、未上場企業や事業部門に投資し、経営改善や成長支援を通じて企業価値を高めた後に売却(イグジット)して利益を得る投資ファンドです。企業はPEファンドから資金や経営ノウハウを受け取り、事業拡大や再生を図ることができます。
対象企業
未上場企業(非公開企業)
・事業承継や成長資金が必要な企業
・新規事業や市場開拓を目指している企業
・財務や経営の立て直しが必要な企業
事業部門(カーブアウト案件)
・大企業の非中核事業切り離し
投資期間
一般的に3~7年程度
ファンドの役割
経営支援や組織改革、人材補強などを通じた企業価値向上
4つのフェーズに分けて詳しく解説! ──ファンドの主な流れ
PEファンドの運用には、大きく分けてGP(ゼネラル・パートナー)とLP(リミテッド・パートナー)という2つの立場があります。

GP(ゼネラル・パートナー)=ファンド運用者
・PEファンドを管理・運営する立場
・LPから資金を集め、投資先企業を選定
・企業の成長支援を行い、最適なタイミングで売却
LP(リミテッド・パートナー)=投資家
・PEファンドに資金を提供する投資家
・年金基金、金融機関、事業会社、富裕層などがLPとして出資
・GPの運用に応じたリターンを受け取る
PEファンドは、LPから集めた資金を使い、未上場企業に投資を行います。その後、数年かけて企業成長を促し、最終的に売却(イグジット)することで利益を得ます。 ファンドは大きく4つのプロセスに分かれています。
① ファンドレイズ ──資金調達(ファンドの組成)
② バイアウト ──企業の買収・投資
③ バリューアップ ──企業価値向上
④ イグジット ──IPO・M&A・買い戻し
① ファンドレイズ ──資金調達(ファンドの組成)
GP(ファンドを運用・管理する組合員)がLP(投資家)にお声がけし、資金調達をするフェーズです。GPは、銀行・証券・地方自治体・富裕層といった方々から投資を募ります。 このフェーズにおいて着目すべき点は主に3点です。

1点目は、「資金の出し手がどのような投資家なのか」です。具体的な例を見ていきましょう。
・公的機関がLPのファンド(東京都出資ファンド)→地域活性化・雇用創出を目的とし、東京都の企業への投資に積極的
・個人の富裕層がLPのファンド→柔軟な投資方針で長期運用も可能
・金融機関がLPのファンド→安定したリターンを重視し、リスクが低めの企業への投資が中心
このように、ファンドに出資している投資家の性質によって、投資対象や方針が異なります。
2点目は、「いくらファンドレイズ(資金調達)しているか」です。これにより、投資先の規模感が決まってきます。
例えば、100億円のファンドレイズの場合、100億円規模の企業の買収は難しいです。
一方、1,000億円のファンドレイズであれば、100億円規模の企業の買収が可能となります。
3点目は、「ファンドの状況(組み込み期間・運用期間)」です。
基本的にファンドは運用期間が10年程度と言われています。
この10年のうち、前半の5年を組み込み期間(投資期間)、後半の5年間を運用期間(会社を成長させてイグジットさせる期間)と捉え、状況確認することが大切です。
② バイアウト ──企業の買収・投資
バイアウトとは、GPがLPから預かった資金を活用し、会社を買収していくフェーズを指します。
具体的には、SPC(特別目的会社)を設立し、対象会社を買収していくような流れです。
バイアウトではLBOローン(レバレッジド・バイアウト・ローン)が活用されます。LBOローンとは、ファンドがLPから資金調達した資金をSPCに入れて、その資金とともに借り入れを起こして買収をしていくローンのことです。 例えば、100億円の会社を買収するとします。そこで必要な出資の資金が50億円、もう一方の50億円を借り入れからまかなうという仕組みになっています。借り入れでまかなった返済の原資を、買収先の会社のキャッシュフローからまかなうスキームです。
③ バリューアップ ──企業価値向上
バリューアップは、投資した会社を企業成長させるフェーズです。管理体制の強化やリブランディング、営業体制の強化、DXの強化、ロールアップといった観点から経営をサポートします。
バリューアップは大きく分けて2種類のスタイルがあります。

1つ目はハンズオンスタイルです。ファンドの担当者が企業に実際に常駐し、企業成長を行っていくことでバリューアップを目指します。経営陣のリソースが少ない企業や、優秀な人を招聘したい企業に最適なスキームです。
2つ目はモニタリングです。月1回会議に参加するなど、適度な距離感を持ちながら経営サポートを行うことでバリューアップを目指します。現経営陣が一枚岩となっている企業や、自由度を保ちつつ関与してほしい企業に向いているスキームです。
④ イグジット ──IPO・M&A・買い戻し
イグジットとは、保有する株式を売却し、投資した資金を回収するフェーズを指します。中小企業庁の調査によると、イグジットによる投資回収で最も多いのは「事業会社(第三者)への売却」、いわゆるM&Aです。その次に多いのがMBO(マネジメント・バイアウト)/EBO(エンプロイー・バイアウト)、IPOという順になっています。
企業が成長する前にM&Aをしても、その時点で選べる相手には限りがありますが、ファンドと組んで企業成長を実現することで、相手の選択肢を増やすことができます。また、ファンドが投資している会社は、証券会社や東証からも上場認定を受けやすく、「IPOのためのスポンサー」という説明が付くというメリットがあります。
後継者不足や新規開拓に最適! ──PEファンド活用が向いているケースとは?
続いて、PEファンド活用が向いているケースについて説明します。

① 事業承継が必要な企業
② 新規事業や市場開拓を目指している企業
③ 財務や経営の立て直しが必要な企業
① 事業承継や成長資金が必要な企業
近年、少子高齢化の影響により、経営者の高齢化や後継者不在による事業承継の問題を抱える企業が多くなっています。PEファンドは、こうした後継者不足の解決にも適した選択です。PEファンドでは、外部から優秀な人材を起用することもできるので、オーナー経営者から経営権を引き継ぎ、事業の安定運営を支援します。
② 新規事業や市場開拓を目指している企業
新たな市場進出や大規模な設備投資には、資金調達と同時に経営ノウハウも必要不可欠です。PEファンドは、優秀な専門家が経営のサポートに入るため、戦略立案や人材補強を通じて成長を加速させることができます。一般的なコンサルティングとは異なり、ファンドのメンバーがフルコミットで経営に参画します。
③ 財務や経営の立て直しが必要な企業
財務状況が悪化している企業に対して、資金注入や経営改革支援を行います。これにより、コスト削減や収益構造の改善が図ることができます。
3種類のPEファンドを詳しく解説! ──PEファンドの種類と目的に応じた使い方
PEファンドの種類と、それぞれの目的に応じた使い方について解説します。
① バイアウトファンド
② ベンチャーキャピタル(成長支援型)
③ ターンアラウンドファンド(再生型)
① バイアウトファンド
バイアウトファンドは、投資家から資金を集めて企業や事業部門を買収し、価値向上を図ったうえで売却し、利益を得ることを目的とするファンドです。
このファンドの特徴として、株式を過半数以上取得し、経営権を確保することが挙げられます。また、投資期間には制限があるものの、投資金額が大きい点も特徴です。高いリターンを獲得し、投資家へ利益を還元することで成り立っています。
よくベンチャーキャピタルと混同されがちですが、バイアウトファンドは、ある程度成熟した企業が投資対象となります。
後継者不在企業の事業承継、事業再編など
② ベンチャーキャピタル(成長支援型)
ベンチャーキャピタルは、創業期や成長期にある新興企業やベンチャー企業などに対し、資金提供を通じて成長を支援するファンドです。ベンチャーキャピタルは、経営に深く関与せず、少数株主として出資のみ行うことが特徴です。
新規事業開拓や大規模投資など
③ ターンアラウンドファンド(再生型)
経営不振の企業に投資し、再建支援を行うファンドです。業績不振に陥った根本的な要因を探り、売上の改善を目指します。また、事業構造や業務プロセス、組織体制など、企業全体で再構築を行うため、大胆な経営改革ができます。
事業再生、業績改善など
経営改善、採用強化、IPOなど効果抜群! ──PEファンドを活用するメリット
PEファンドを活用するメリットを紹介します。
① 資金調達と同時に経営支援が受けられる
② 経営改革による企業価値向上
③ 事業承継やMBO(マネジメント・バイアウト)の支援
④ 自社が主体的となった成長戦略を実現
⑤ 幹部人材採用力の向上
⑥ IPO(株式上場)の実現
① 資金調達と同時に経営支援が受けられる
PEファンドは単なる資金提供者ではなく、経営パートナーとしてノウハウや戦略支援を行います。
特に組織改革においては非常に有効です。企業の成長には、フェーズに適した人材が必要であることをオーナー自身も理解しているものの、長年大切にしてきた社員や役員に新たなミッションを与えたり、外部から招聘した人材を重役に抜擢したりすることは容易ではありません。
そこで、PEファンドとパートナーシップを組むことで、株主が変わるという環境変化を活用し、オーナー自信が意図的にコントロール外の状況を作り出すことがきます。これにより、企業成長を促進する経営組織の構築は実現できます。
さらに、ストックオプションや待遇の改善を通じて、組織全体の活性化やエネルギーの最大化が期待できます。
また、近年ではDX(デジタルトランスフォーメーション)支援に特化したPEファンドも登場しており、IT人材の確保やITシステムの導入支援などを通じて、企業の競争力強化をサポートするケースも増えています。
② 経営改革による企業価値向上
専門的な支援を受けることで、売上拡大や利益率改善が期待できます。PEファンドは、多様な分野で豊富な経験を持つ専門家チームを擁し、企業の経営改善や競争力強化を支援します。専門家が経営陣と一緒に企業価値の向上に取り組むことこそ、PEファンドと連携する大きな成長戦略の一つです。
例えば、コスト構造を見直すことで利益率が改善したり、不採算部門を整理し収益性の高い事業へ経営資源を集中したりできるでしょう。
また、ファンドが有する投資先のネットワークを活用できるのも特徴です。PEファンドは、既存の投資先や過去の投資先、さらには投資家との広範なネットワークを活用し、企業に新たなビジネスチャンスを提供します。このネットワークを通じて、企業の事業拡大のサポートが可能です。
③ 事業承継やMBO(マネジメント・バイアウト)の支援
PEファンドを活用することで、後継者不在問題を解決できます。例えば、ファンドが経営権を一時的に引き継ぎ、新経営陣を育成することで、企業の存続と成長を同時に実現することが可能です。
④ 自社が主体的となった成長戦略を実現
PEファンドでは、自社が大切にしている理念や方針を維持しながら、さらなる成長を目指したディスカッションを行います。また、株式を51%以上で保有することで、株主として経営に関与できる点も特徴です。
ただし、経営陣の判断を尊重するため、企業理念や事業の根幹を大きく変えることはありません。そのため、自社のアイデンティティを維持しながら成長を目指すことができます。
⑤ 幹部人材採用力の向上
PEファンドには、CxOや経営幹部を目指す多くの優秀な人材が多く在籍しているため、既存社員とプロジェクトを遂行することで、既存社員のキャリアを再構築する機会が生まれます。役員メンバーがCxOクラスに上がることもありうるでしょう。
また、PEファンドとの提携により、企業は「再成長が期待される企業」として評価されます。転職市場においても、再成長を期待する重要な任務を担う求人は人気があり、より優秀な人材の採用が可能となります。
⑥ IPO(株式上場)の実現
PEファンドの資金回収は、高い利益率が見込める内に企業の株式を売却し、利益を確定させる仕組みです。そのため、将来的にIPOを目指すことが可能です。
また、ガバナンス体制や管理体制の整備を支援し、IPOに向けた準備を進めることができます。さらに上場後の成長ストーリーを共に描き、その実現に向けて長期的に伴走することで、企業が持続的に成長できる体制を構築します。
失敗しないためにも要チェック! ──PEファンドを利用する際の注意点
PEファンドを利用する際の注意点を紹介します。
① 経営権を譲渡するリスクがある
② ファイナンスを活用する投資である
③ 短期間での業績改善が求められる場合がある
④ ファンド選びが企業の将来を左右する
① 経営権を譲渡するリスクがある
ファンドが過半数の株式を保有する場合、最終的な意思決定権が企業側に残らない場合があります。また、重要な経営判断にはファンドの承認が必要となるケースもあり、経営の自由度が制限される可能性も否定できません。
② LBO(レバレッジドバイアウト)を活用する投資である
LBOとは、対象企業の資産や将来のキャッシュフローを担保に、金融機関から買収資金の融資を受ける手法です。この融資は、最終的に対象企業の負債として計上されるため、対象企業の財務に直接影響を与えます。
PEファンドはバランスの取れた資金計画を策定するプロフェッショナルですが、この観点も意識しておくことが重要です。
③ 短期間での業績改善が求められる場合がある
PEファンドは投資回収の期限を見据えているため、一定の期間内で企業価値を向上させることを求めます。収益改善を優先し、不採算部門の早期撤退を求めるなど短期目線でのプレッシャーがかかる場合もあります。期間内でどのような成長戦略を求めるのか、PEファンドに何を求めるのか、検討する必要があります。
④ ファンド選びが企業の将来を左右する
ファンドごとに投資方針や経営支援の内容、支援スタイルが異なるため、慎重な選定が必要です。特にイグジット(出口戦略)においては、企業の将来の経営を大きく左右する要素となります。例えば、競合に会社を譲渡した場合、新たなビジネス機会を失うリスクも考えられます。
何を重視するかは企業によって異なりますが、一般的なチェックポイントは以下の点が挙げられます。

・投資方針が自社のビジョンと合致しているか(短期回収型か長期支援型か)
・過去の支援実績(同業他社や同規模の企業への支援実績があるか)
・経営陣との相性(信頼関係を築けるパートナーかどうか)
・支援体制(経営ノウハウ提供や人材派遣など、具体的にどのような支援が期待できるか)
専門家に相談してPEファンド活用をスムーズに進めましょう!
PEファンドを活用時には、ファンド選定や契約内容、経営改善プランの策定など、専門的な知識が必要となります。信頼できる専門家に相談することで、不安やリスクを軽減し、スムーズに進めることが可能です。
「PEファンドの窓口」にご相談ください!
株式会社NEWOLD CAPITALでは、PEファンドをご紹介する「PEファンドの窓口」を開設しました。
多くのPEファンドとの連携を深めている当社だからこそ、貴社にとって適切なファンドを紹介できます。PEファンドの強みは各社ごとに異なり、また、ファンドのメンバーもそれぞれ個性があるため、貴社との相性を考慮することが重要です。
気になることや不安がある場合は、まずはお気軽にご相談ください。