第3回のCxO Diaryですが、改めて塚田の登場となります。
前回のCEOの話を振り返って
前回のCEOのキャリア1件目のM&Aについての話、非常に興味深いものでした。
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経験を重ねたM&Aアドバイザーであれば、恐らく1度はヒヤリハットや、もっとこうすれば良かったと感じる経験を持っていると思いますが、当社栗原は1件目からそのような状況であったこと、私自身も認識していませんでした。
栗原を主体として「M&A失敗事例セミナー」をこれまで2度開催し、非常に好評いただいていまして、再度開催予定ですので、その際は是非ご参加ください!
私のキャリア1件目のM&A案件
ちなみに私のキャリア1件目のM&Aは、2017年にご支援をした「事業譲渡」の案件でした。
売り手は、大手出版グループのグループ会社A社における大手通信会社への派遣事業を手掛ける事業をされていました。私は、その派遣事業の譲渡提案を実施し、大手人材派遣会社がその派遣事業を譲り受けた事例です。
当時、私は派遣業界に着目し、買い手企業の開拓をしていましたが、買い手企業の求める譲渡企業の情報が不足していました。そこで、自ら買い手企業のニーズに合った譲渡企業(事業)を探そうと考え、コングロマリットにて派遣事業を行っている企業に対して、事業譲渡の提案を進めていました。
その背景として、当時2017年は、2018年問題、2020年問題といわれる派遣業界における派遣法改正を控えており、今後の利益率低下が避けられないと考えられていたからです。また、従来は特定派遣という申請制であった派遣許認可についても、許可制へと移行し、純資産要件などが厳格化されたことから、派遣事業を本業としていない企業が、M&Aを通じて「選択と集中」を推進していくニーズが高まると考えていました。
結果としてA社は、法改正よりも、派遣ビジネスとしての利益率が年々下がっていることに着目し、事業譲渡の意思決定をされました。振り返ってみても、利益率が低下し続けている現在の市況や、同一労働同一賃金の問題を考慮すると、当時の選択は正しかったのではないかと思います。
実際、初めての案件が事業譲渡でしたが、1件1件のクライアント契約の切り替え、派遣社員の方々の雇用契約切り替えなど、非常にハードな業務内容でしたが、クライアント両者様が非常に優秀な方々で、実際には「助けていただいた」記憶があります。特に、事業譲渡における派遣社員の方々の「有給」についての取り扱いは、今でも記憶に残る苦い思い出です。(興味がある方がいらっしゃれば、是非お問い合わせください。)
東北の派遣会社との出会い
そんな本日ですが、CFO岩木とのはじめてのディールについて記載します。
2017年、27歳だった当時、私は東北のとある派遣会社様の社長と出会い、「上場を目指していることから、買収戦略を通じた事業規模拡大を図っていきたい」といったオーダーをお受けしました。東北地方でただでさえ新規上場が少ない地方であり、その大義とバイタリティに感銘を受けたことを今でも覚えています。
当時、当該企業の売上は10億円超で非常にすばらしい企業であったことは間違いありませんが、買収戦略を推し進めるとなると、仲介会社の手数料は最低でも2,000万円ほど、株価としても数億円はかかることがすぐに頭をよぎりました。
なお、買収の予算感をお伺いしたところ、1億円ほどとお伺いしました。1億円というと、当たり前ながら投資額としてはどの企業であっても社運をかける多額の投資ではありますが、M&Aの市場、派遣業界に対して一定の勉強をしてきた私としては、派遣業界における平均の利益率が3-4%程度であることや、優良な譲渡案件はEBITDAマルチプルで7倍程度の事例が出てきていること、入札になることなどを踏まえると、なかなか1億円の予算におけるM&Aでは、企業成長に効果的といえる買収戦略推進と譲渡企業との出会いを果たすことは難しいのではないかと考えていました。
一方、その出会いの少し前に、とある東京都内の企業の社長様と出会いました。
こちらの企業様は、近々で上場をする予定であり、事業内容としては人材領域における媒体事業やコンサルティング事業などを行っている企業様でした。上場については高確度で実現できる模様で、上場した後の成長戦略として、売上(トップライン)の増加や既存事業とのシナジーを図る観点から、自社ではまだ小規模でしか行っていない「派遣業界」におけるビジネスをM&Aで実現していきたいと考えておられました。また、グループインしていただいた企業には、中核として事業推進をお任せしたいという意図も含まれていました。
成長戦略型M&Aの糸口を掴む瞬間
私は、東北の企業様の話を伺い、なかなか買収戦略推進は難しいかもしれないな・・・と感じたとき、東京の企業様の話をパッと思い浮かびました。しかし、「上場を狙っている」と明言される社長様に対して、ストレートに東京の企業様とのM&Aを提案することは、少し失礼にあたるかもしれないと考えました。
そこで、まずは「なぜIPOをしたいのか?」という点について、しっかりとヒアリングすることに専念しました。IPOをしたい理由について詳しく深堀していくと、主に以下のような内容が浮かび上がりました。
① 社員全員に上場企業で働くという経験をさせてあげたい
② 上場企業として買収戦略(規模拡大)を推し進めていきたい
③ 将来的な成長を反映した株価を実現したい
上記をヒアリングした上で、一度持ち帰らせていただき、どのような提案ができるかを考え再度アポイントの依頼をしました。また、参考として書籍を1冊お渡ししました。その書籍は「成長戦略型M&A」というタイトルで、ミニIPOという概念を伝える内容でした。
次回のアポイントに向けて、IPOを実現するに際して必要となる課題について洗い出し、どのようなスケジュールで進めていくことが現実的なのかを議論するディスカッションペーパーを準備しました。(当然ながら、全て独学で行いました。)また、実際に買収戦略を推し進める場合、1億円の予算で実現可能となる企業を数社ピックアップし、その点についても議論しました。
派遣業界における売上のドライバーは、言うまでもなく派遣社員の「人員数」が重要ですが、1億円の規模では、数十人規模の派遣企業や、社会保険に未加入などの課題を抱える企業しか対象にならないことをお伝えました。なかなか顕在化している案件から機会を見つけることは難しいことを伝えつつ、実際に進める場合には、仕掛け型のアプローチを推進する施策も伝えましたが、実現可能性や時間軸を含めて、なかなか現実的ではないという議論も実施しました。
その上で、最後のディスカッション要素として、先般の東京の会社様についての話を差し上げました。上場を目前に控えていること、上場後の成長戦略、エクイティストーリーには、派遣事業が必要であること、派遣事業の核となる企業を探していることをお伝えしました。
この会社と一緒になる選択肢を取る場合、自社単独の上場という選択はあきらめざるを得ませんが、上場をしたい目的であった①社員全員に上場企業で働くという経験をさせてあげたい、 ②上場企業として買収戦略(規模拡大)を推し進めていきたい 、③将来的な成長を反映した株価を実現したいという3つの目的は、全て達成できる可能性があることも説明しました。
さらに、東京の会社の社長様のキャリアやお人柄についてもお伝えし、社長様にお会いする機会を提供できることもお伝えました。
社長からは、先日お渡しした書籍を読んでいただいたことから、「そのような選択肢もありかもしれないと考え始めたところで、いきなりこのような機会が目の間に出てくるとは思いもしていなかったが、一理ある」といった反応をいただきました。ただし、③将来的な成長を反映した株価を実現したいという部分についてはどうなのか?という質問をいただきました。詳細をご提案すべく社内で検討するため、財務資料をご準備いただくようにお伝えし、その日のアポイントを終えました。
株価については、買い手企業が判断する部分であり、自分自身も確信が持てず少々不安がありましたが、東京の会社との面談時には、バリュエーションの考え方をヒアリングしており、ある程度の売上利益が出ている企業や成長している企業であれば、「DCF法(ディスカウントキャッシュフロー法)を活用したバリュエーションの実施が可能であることをヒアリングしていたため、勇み足ではありながらも、なんとか前に推し進めた形となります。
岩木の協力で切り開いた成功の軌跡
ただ、「将来的な成長を反映した株価」について、社内で検討すると言ったものの、私はDCF法を活用したM&Aをやったこともなければ、事業計画を作成したこともありません。東北の企業様もその時点では、自社で事業計画を作っていませんでした。正直、途方に暮れていました。この状況でどうすべきか悩んでいたところ、同期の岩木が会計士であることを思い出し、ダメ元で岩木に相談することにしました。
すると、岩木はなぜかワクワクした顔で、「DCFの案件とか事業計画を作る案件をやりたかったんだよね」と、待ってましたと言わんばかりなノリで、ひょうひょうと財務資料を読み込み始めました。
そして彼はExcelワークが「神掛かっている」のですが、何が起こっているのか理解する間もなく、事業計画のたたきが出来上がったのです。加えて、彼は私に対しては、「これはだいたい何%?」「過去の売上からするとこんな感じかな?」「地代家賃は増えない?」「昇給はする予定?」「人数は増えない?」「新規出店は必要?」など次々と質問を投げかけてきました。
なるほど、事業計画というのはこのように作るのか、と感心する一方で、アドバイザーとしての私の付加価値が何ら感じられず、非常に悔しい思いをしたことを今でも覚えています。
その後、岩木が作成した事業計画のたたきを基に、東北の社長と何度もすり合わせ、最終的に東北の社長が「納得のいく事業計画」を作り上げることができました。
その事業計画を作成後、東京の社長に対して東北の社長を紹介し、見事M&Aの実現までご支援していく運びとなりました。東京の社長様に対して、東北の社長様は、事業計画をもとに自社の成長戦略について自信を持って語り、自身が事業を牽引し、この事業計画を実現することを前提に、M&Aをする場合には、●億円の評価をつけてほしいという形で、M&Aプロセスが進みました。
(岩木は、買い手企業が新規上場企業であることから、のれん償却のシミュレーションや仲介者の手数料がもたらす影響についても買い手企業と議論しており、非常に勉強になりました)
思い返せば、この案件は、私にとって実質2件目のM&A案件でした。
岩木がいなければ、このような案件を私が手掛けることは絶対に不可能だったと思います。この後も、岩木と共にこのような連続的な経験を積むことができたおかげで、私が成長戦略型に強いM&Aアドバイザーと言われている?ようになることができたと思っています。
岩木は私にとって「生きるM&A辞典」です。前職を通じて1,000件以上のM&Aに関与してきた彼は、常に何らかの解決策を持っています。M&Aにおけるあらゆる論点について、岩木に相談をすれば、何かしらの回答を得ることができるのです。岩木は当社のM&A事業にとって、最重要人物といっても過言ではありません。
次回は、そんな「生きるM&A辞典」岩木に、自由に語ってもらいたいと思います。よろしくどうぞ!