中小企業の人手不足を解決すると期待されるBPaaSとは

インボイス制度や定額減税の導入などで経理・労務の負担が高まる中で、中小企業の人手不足解消につながる可能性があるサービスとして広がり始めているのが、BPaaS(Business Process as a Service)です。
中小企業も取り組みやすい価格帯のサービス提供が始まったことで、DX(デジタルトランスフォーメーション)推進を後押しできる解決策として注目されています。
今回は、BPaaSのメリットから事例までご紹介します。

BPaasとは?

BPaaSの定義と基本的な概念

BPaaSは、SaaS(Software as a Service)とBPO(Business Process Outsourcing)の要素を掛け合わせたサービスです。 このサービスは、特定のビジネスプロセスをクラウド上で提供し、自動化とアウトソーシングを通じてプロセスの効率化を図ります。

SaaSやBPOとの違い

SaaS

SaaSとは「Software as a Service」の略で、インターネット経由でクラウド上のソフトウェアを利用するサービスのことです。 利用者はサブスクリプション形式でソフトウェアを利用し、インストールやメンテナンスの必要がありません。

BPO

BPOとは「Business Process Outsourcing」の略で、業務プロセスを外部に委託し、自社のリソース負担削減を実現できるアウトソーシングサービスのことです。専門業者による業務の実行により、コアビジネスに集中し、運営の効率を高めることが可能です。

BPaaSは、SaaSの技術的利点とBPOの運用面の利点を融合させることで、主に次の3つのメリットを提供することができます。

BPaaSが提供するメリット

1. 生産性の向上

BPaaSはSaaSのプロダクト活用に加え、自社の従業員が行なっていた業務プロセスの一部を外部の専門企業に委託するため、業務の自動化・最適化することが可能です。そのため、自社の従業員のリソースを重要な業務に集中させられるようになり、企業全体のパフォーマンスの向上が図れます。

2. コスト削減

BPaaSを導入することで、コストを大幅に削減できます。従来のSaaSの導入では、高額な初期投資や運用ノウハウの不足からくる追加コストが発生しがちですが、BPaaSの場合は運用も外部に任せることができるため、人件費やその他の運用コストを抑えることができます。

3. データやノウハウの共有・蓄積

BPaaSはクラウド上に業務データやノウハウを蓄積できるため、リアルタイムで共有することができます。これによって業務の透明性が高まり、データの効果的な活用が可能になります。 従来のBPOでは、アウトソーシング先からのデータ提供が限定されるため、自社に蓄積される情報が限られていましたが、BPaaSはすべてのデータを自社で管理できるため、意思決定の質を向上させることができます。

以上、3つのメリットをご紹介しました。
特に中小企業では、大企業と比較してリソースや予算が限られていることが多く、業務効率化とコスト削減が課題として挙げられますが、BPaaSの導入によりこれらの課題解決が期待できます。

株式会社kubellのBPaaSに関する取り組み

実際に、中小企業のBPaaS導入が増加傾向にあり、最近では、BPaaSを提供する企業の活動も目立つようになってきました。そこで今回は、「中小企業No.1 BPaaSカンパニー」を目指す株式会社kubell の取り組みをご紹介します。

Chatwork株式会社から株式会社kubellに社名変更した背景と事業戦略

国内利用者数No.1のビジネスチャットツール「Chatwork」を提供するChatwork株式会社は、2024年7月1日に、株式会社kubell(読み:クベル)へと社名変更しました。
事業をビジネスチャット単体から、ビジネスチャットを包含するBPaaS事業へと大きく拡大していき、グループとして成長する企業群への展開を目指す意志が、今回の社名変更に込められているようです。

実際に、ビジネスチャットプラットフォームを基盤として、幅広い経営領域における本質的なDXを推進するBPaaS事業の展開に大きく投資しています。

新たに発表された2026年を最終年度とする新中期経営計画では、2026年までに「中小企業No.1 BPaaSカンパニー」という目標を掲げています。
同社が、日本の少子高齢化に伴う中小企業の労働生産性の低下を重要な課題と捉え、その課題を解決するための事業展開であることが窺えます。

株式会社kubellのM&A戦略

同社は、秘書業務・事務業務など非専門領域の「広さ」と、士業やプロフェッショナルの知見が必要な専門領域の「深さ」を組み合わせることによって、顧客のノンコア業務をワンストップで提供することを目指しています。
非専門領域の「広さ」は既存サービスの「Chatwork アシスタント」で展開し、今後専門領域の「深さ」を提供するために、M&Aやアライアンスを活用しています。

そして2022年12月16日、就業管理システムや労務アウトソーシングなど中堅中小企業のバックオフィスに必要な人事労務サービスを提供する株式会社ミナジンの株式を取得し、子会社化しました。
ミナジン社の子会社化により人事労務領域におけるBPaaSをすでに提供し始めています。 今後も、営業・マーケティング、経理・財務、調達・購買、総務などの専門領域のBPOサービスを展開する企業とのM&Aを積極的に検討していくことが予想されます。

引用:株式会社kubell 2024年12月期第1四半期 決算説明資料 P55抜粋

SaaS×BPOのM&A・業務提携事例

3つのSaaS企業とBPO企業のM&Aや業務提携事例をご紹介します。

事例1|キャスター(人材)×マネーフォワード(SaaS)

株式会社マネーフォワードは、2024年4月1日にリモートアシスタントをはじめとした人材事業を運営する株式会社キャスターの株式を20%取得しました。

株式会社マネーフォワードは、バックオフィスに関するさまざまなデータを連携し、経理や人事労務における面倒な作業を効率化する事業者向けSaaS型サービスプラットフォーム「マネーフォワード クラウド」を展開しており、多くの企業のバックオフィス業務の効率化を通じたDXを支援しています。

株式会社キャスターは、「リモートワークを当たり前にする」をミッションに掲げて2014年に創業し、国内のみならず世界各国から多様なスキルを持つ人材を集められる採用力が強みであり、800名以上のリモートワーカーを直接雇用しています。

この提携により、株式会社マネーフォワードの持つSaaSのノウハウと、株式会社キャスターが有する多様なスキルをもつ人材を融合させ、労働人口の減少に伴うバックオフィス領域の人材不足に対して、人材供給や生産性向上の提供が期待されます。

事例2|シンカー(データマーケティング)×ベルシステム24ホールディングス(BPO)

株式会社ベルシステム24ホールディングスは、2023年7月31日にデータマーケティング事業やAIソリューション開発を手掛ける株式会社シンカーの発行する株式の70%を取得し、子会社化しました。

株式会社ベルシステム24ホールディングスは、1982年に国内初の本格的なコールセンターサービスを開始し、以来、企業と消費者の接点となるコンタクトセンターを中心とした幅広いアウトソーシング事業を展開しています。

株式会社シンカーは「デジタルの力で、企業と生活者がより良い体験で結ばれる未来を創る」をビジョンに掲げ、データマーケティング支援やAIソリューション・プロダクトの開発を展開しています。 株式会社ベルシステム24ホールディングの豊富な顧客接点設計・運用ノウハウデータと、データを活用して顧客のロイヤルティを向上させるノウハウを持つ株式会社シンカーが提携することにより、データ利活用型マーケティングBPO体制の構築が加速されることが期待できます。

事例3|久保田信息系統(システム開発)×トランスコスモス(BPO)

トランスコスモス株式会社は、2024年6月11日に株式会社クボタの中国システム子会社である久保田信息系統有限公司の株式100%を取得しました。
トランスコスモス株式会社は、「売上拡大」に向けた顧客サポート支援、プロモーション活動支援、マーケティング活動支援と「コスト最適化」を実現するITサポート、ビジネスサポート、設計開発支援、システム開発支援を総合的かつグローバルに支援するアウトソーシングサービスを提供しています。

久保田信息系統有限公司は、クボタおよび中国のグループ会社向けにシステム開発・運用・保守業務、SAP改修・保守、中国データセンター運用業務を提供しています。

トランスコスモス株式会社は、これまで提供していなかったSAP改修・保守事業を引き継ぎ、パッケージ導入から運用定着までを促進することで、BPaaSモデルでのサービス提供を加速させています。

これらの事例は、SaaSやBPOと相乗効果をもたらずデジタルの先進技術と、BPOの実務的なサービスを組み合わせることで、顧客に対する価値提供を強化することが期待されます。

BPaaSのまとめと今後の展望

中小企業にとって、BPaaSは業務プロセスを自動化・最適化し、限られたリソースを最大限に活用することを可能にします。これにより、企業は効率化とコスト削減を実現し、より戦略的な活動に集中できるようになります。
また、データ分析や予測機能を活用することで、精度の高い経営戦略を策定し、成長機会を最大限に引き出すことができます。

総じて、BPaaSは中小企業の成長と成功を支える重要な要素となり、企業の持続的な発展に寄与することが期待されます。

当社では、SaaSを提供する企業様、BPOを提供する企業様と、日々M&Aや成長戦略に関する意見交換を行なっています。
また、業務提携のご相談も承っていますので、ご興味のある方はぜひお問い合わせください。

参考

日経新聞記事
株式会社kubell 2023年12月期本決算説明資料
株式会社kubell ニュースリリース
株式会社キャスター 2024年8月期第2四半期決算説明資料
トランスコスモス株式会社 ニュースリリース

渡辺 紗里奈

経営戦略室 シニアアソシエイト

渡辺 紗里奈

この記事を書いた人

東京理科大学卒業後、新卒で株式会社日本M&Aセンターに入社し、M&Aアドバイザーとして従事。当社においては、100億円を超えるディールサイズの案件をセルサイドFAとして担当。M&Aアドバイザーとしての経験を活かし、経営戦略・新規事業・マーケティング等、NEWOLD CAPITALの経営戦略推進を担当。

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