高齢化の進展とともに要介護認定者数は、2019年４月現在659万人で、この19年間で約3倍に増加しており、それに伴い、介護サービス利用者数も早いペースで増加している。 「2025年問題」では、団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者となるため、医療・介護需要は増加見込みとの見立てだったが、政策のターゲットは「2040年問題」となっており、高齢者人口の伸びは鈍化するも、 生産年齢人口が急激に減少する見通しであり、今後より一層、支え手不足は深刻化すると見込まれる。

介護業界のＭ＆Ａは年々増加しており、介護を成長分野とみて既存の介護ビジネスを強化したり、新たに参入したりする企業が増えている。介護業界のＭ＆Ａ件数は、2020年に96件、2021年に129件、2022年に130件となっており、 2022年には介護保険制度が始まって以降で最も多い件数となった。この背景には、人手不足や後継者不在の問題を解消したいという売り手側のニーズと、既存事業の強化や成長産業への新規参入という買い手側のニーズが合致するケースが増えていることがある。 市場の拡大を期待して介護ビジネスを一層強化したり、新規に参入したりする買い手側にとって、サービス利用者や介護人材、サービスのノウハウをそのまま引き継ぐことができれば、早い段階で収益基盤を強化することが見込める。

待機児童者数は減少傾向である一方、保育士の人材不足はより深刻である。保育士の有効求人倍率は依然として高く保育士の確保が喫緊の課題となっている。さらに、保育士養成施設で保育士資格を取得したとしても、 実際に保育園などに就職するのは約半数程度とも言われ、仮に就職したとしても、半数が5年未満に退職してしまうという調査結果もある。そのため、保育士確保や離職防止のために、労働条件や職場環境の改善に取り組んでいる保育園も増えている。

昨今の流れとして、大手民間保育関連企業による保育園開設や他業界からの新規参入の動きが目立っており、保育士確保や市場シェア拡大、既存保育所の運営ノウハウ獲得のための戦略として、Ｍ＆Ａを活用している。 保育業界のＭ＆Ａ件数は、2020年に30件、2021年に26件、2022年に41件と増加傾向にある。 この背景には、異業種から参入する場合、国の定める基準をクリアし、都道府県知事の認可を受ける必要があり、保育士を採用するコストもかかることが要因である。自社で保育所を設立するよりも、Ｍ＆Ａをした方がスピーディに経営資源や顧客を取り込むことができるので、異業種からの参入においてＭ＆Ａは効率的な手段と言えるだろう。